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こたろう博物学研究所
探訪記録:20000528

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二ツ岳(別子山村/土居町)登山【平成12年(2000)5月28日】


徳島から帰って来て、テレビを見て一息ついたあと、稲葉さんに電話をする。
「明日はどうします?」
徳島からの帰りに雨に降られて、少々天気が気になるところではあるが、前々からの約束で、別子山界隈の山へ一緒に登ろうと目論んでいたのだ。
「天気予報は確認した?」
「いやぁ、まだなんですよ」
「それじゃ、テレビで確認してみるから、あとから電話して」
一旦、電話を切り、インターネットで東予地方の天気を確認する。予想に反して、明日は10%程度の降水確率。
「どうにか天気はもつでしょうから、とにかく行ってみましょう。ところでどこに登ります?」
東赤石、二ツ岳、大座礼山と別子山村を取り巻く山々を以前より候補地として挙げていた。それに加えて新宮村の笹ヶ峰・カガマシ山も挙げていたのだが、高速道路を使わなければ日帰りはちょっとキツイ。そこで、別子山村界隈からの選択に移ったのだが、「シャクナゲが見たい」「行ったことがなく、かつ登りがいのある山へ登りたい」、この2点から二ツ岳に決めた。

朝5:10に目覚め、支度を整え、待ち合わせの場所へ。
予定通り5:30に出発。いつもの如く、重信川の土手沿いの道を上り、伊予・川内線経由で国道11号線に出る。桜三里の上り口のサラヤで食材を調達後、別子山村を目指す。車の流れは非常にスムースである。

8:20頃、肉淵に到着。ここから村道峨蔵線へと左に折れる。ちょっと走ると二手に分かれる分岐路に差し掛かり、右手側の道沿いに「林道峨蔵線・始点(幅員4.0m、延長3.6kkm)」との標識が立っている。林道というからには、未舗装でパンクの心配もせねばならないような悪路だろうとの不安感もあったが、意外にもずっとアスファルト舗装がなされている。10数分車を走らせると、小瀑のかかる沢の手前に2台の車が駐車してあるのが見えた。
「ここが登山口かなぁ」
沢の左手に道らしきものが見えるものの、名の通った二ツ岳の登山口にしては貧相である。看板らしきものも全く無いのはどうしてもおかしい。一旦車から降りて、稲葉さんが一通りチェックする。
「どうも、ここからは上れないみたいだよ」
「それじゃもう少し車で上ってみましょう」
心配することはなかった。アスファルトのきれる林道終点のところには、ちゃんと、立派な登山口の看板が立っているし、車3〜4台は停めれそうなスペースが設けられていた。

登山口の袂に車を停めて、颯爽と登山準備に移る。

8:40、登山ポストに氏名、連絡先、予定等を書き込んだメモを突っ込んで、赤色の鉄製の階段を上り始めた。
しばらくは、植林帯を抜けるやや急斜面の道を行く。15分過ぎたぐらいから、雑木帯が取り囲む平坦な道へと変わり、歩くのも随分楽になる。この道はかつては瀬戸内海と別子山を繋ぐ往還道・生活道であったらしく、非常にしっかりしている。迷う心配など更々無いほどだ。

「しかし、この山は花が少ないねぇ」
などと話しながら進んでいく。確かに、若葉の緑は綺麗なのだが、この季節、やはり色鮮やかな花も目にしたいのが心情である。ふと足元に目をやると、管形の長さ2cmほどの黄色い花をつけた小木が。早速写真に収める。
「これ、何て名前なんでしょうね」
「さぁ」
いつもながら、植物の名前がわからないのにはもどかしさを感じてしまう。すぐに名前が頭の中に浮かぶと、随分楽しみも増すことだろうに。

花を探しながらゆったりとした足取りで歩いていくと、段々と水の落ちる音が近づいてくる。9:20、水場に到着。沢を流れる水は透き通っていて、しかも冷たくて気持ちがいい。手で掬って喉を潤し、小休止する。
「昼飯のラーメンは、やっぱり水道水じゃだめだよね」
とPETボトルの水を入れ替えて、気分新たに再出発。

花が少ないと残念がっていたら、エビネのような花が一輪咲いているのを発見。ノビネチドリだろうか。正確に同定はできないが、ラン・エビネの仲間には違いない。

やがて目の前に稜線が見えてくる。そして、左手に三角状の巨岩が二つ突っ立っているのが目に入る。
「これが鯛の頭か!」
鯛のおかしらのように見える岩峰があるとの情報をもとに、すっかり鯛の頭と信じ込み、写真を撮る。左手の岩峰のところでは先客の休息をとる姿も見えるので、これは間違い無い。(実は間違いなのだが...)
山の斜面は青々とした若葉で萌え上がっている。差し込む初夏の日差しに照らされ、キラキラと輝いているようにも見える。実に美しい風景である。

9:54、再び水場に出る。もう高度は1000mを超えたと思われるのに、こんなに水場が豊富なのも珍しい気がする。登山をする者にとって、本当に有り難いことである。そこから5分弱で尾根の分岐路に到着する。ここが峨蔵越である。道標が立っていて、これには「二ツ岳まで実働1時間」と記されていて、ご丁寧に「1時間」のところを黒の油性マジックで「1.5時間」と書き直している。そして、その上には「山をなめるな、アメをなめよ」という三島警察署のファンキーな文句が記されている。「山を見くびってはいけない。疲れを癒して注意深く進め」という戒めを洒落た言い回しで表しているのだが、どうも「是非別子飴をよろしく!」という意味も背後に隠れているような気がしてならない。

峨蔵越で休憩がてら記念撮影をして、再び歩き始める。3〜4分歩いた頃だろうか、目の前にシャクナゲの淡い桃色の花が現われた。僕にとって、初めての野生のシャクナゲの花である。その美しさに思わず見とれてしまう。そして夢中でシャッターを押し捲ってしまう。ここからしばらく道の両脇にシャクナゲがオンパレード状態になる。多少道は険しくなってくるものの、花の潤いのある道なので、全く疲れなど感じない。

そうこうしているうちに、先程下から仰いだ岩峰に辿り着く。しかし、どこからどうみても鯛のおかしらには見えない。「これが鯛の頭なのかなぁ」と首を捻りながら進む。この岩峰を過ぎるころから四方の景観が開けてくる。振り返ると、赤星山が見える。裾の方が幅広く、どっしりとした山容である。右手には土居町の街並みとその先には瀬戸内海が見える。左手には高知県境に聳える山々の稜線が続く。

10:22、「あと1.0km」との看板が立っているところに辿り着く。ということは、やはり峨蔵越から二ツ岳までは1.5時間ほど要する勘定になる。しかし、1.5kmを1.5時間のペースということは、この先の道も決して楽では無いことを予想せずにはいられない。

10:43、再び岩峰に出くわす。巻道に差し掛かったところに、看板が立っており、その裏側には「小鯛の頭」と書いてある。そうか、先程写真に収めたのは「鯛の頭」ではなかったのか....。
それから10分歩くと、正真正銘の「鯛の頭」に到着した。なるほど、鯛のおかしらの如く、口を開けて上向きになっているように見える。
「ところで、どっちが頭のほうかねぇ?」
「うーん。ほら、あそこの窪みんとこが目ん玉に見えるじゃないですか。南側が頭ですよ」
と自説を繰り広げると、
「北側が頭じゃないの。鯛は下顎が長いからねぇ」
果して真偽は如何なるものか?是非とも命名した人に問いただしてみたいところである。

ここからは急坂が続く。途中、岩登りに近いところもあるが、シラベの枯れ木を梯子代わりに立てかけてあるので、上るには難儀しない。やがてツツジが沢山の花を付けて出迎えてくれる。峨蔵越までは「花が少ない!」と不満気味であったが、稜線に入ってからというものの、次々と花の姿を見ることができ、登って来て良かったと実感してしまう。

登山道の脇には赤テープやピンクのリボンが多数括り付けてある。これならば迷う心配はないであろう。
峨蔵越から歩いて1時間半、最後の急坂を登り詰めると、人の声が段々と近づいてきた。

11:30、二ツ岳頂上到着。標高1647mの頂上はやや手狭な空間である。その中央には三等三角点の標石、建設省国土地理院の標柱があり、その周りに幾つかの登頂記念板が立てられている。「観音寺あけぼの山の会」という名前もお目見えしている。「高松市民登山学校20世紀会 2000.5.14」という真新しい看板も小木に掛けられている。
西手には、エビラ山、権現山、東赤石山、そして遠くに霞んで笹ヶ峰、そしてその遥か先には石鎚山系と思われるような影が見える。西から北にかけての山々の姿が一望できる。良い眺めだ。と、景色を堪能していると、ふと三島警察署の辛口の看板が目に入った。「見とれるな!!ここが名山二ツ岳」......と意味不明的ながら「気を抜いたらいかん!」という警告を発している。

さぁ、とにかく腹もへったことだしと、荷物を降ろし、まずは祝杯を。マグロの缶詰をフライパンで炒めて、それをツマミに、冷えたビールを喉に流し込む。爽快だ。
そこへ南側の景観を楽しんだ後の先客6人のグループが三角点の場所まで戻ってきた。
「こんにちわ」
「お疲れさま」
と挨拶を交わす。聞くところ、香川からの来訪で、昨晩は登山口のところで車中泊したらしい。昨日、徳島から松山に帰るときには激しい雨に見舞われたので、二ツ岳麓もさぞかし大変だったろうと思ったが、満天の星を仰げたとのこと。そんなことならば、我々も前日から繰り出せばよかったと内心思ってしまった。
そして山頂界隈を散策していたもう一グループも姿を見せた。こちらは2組の夫婦連れで松山方面からの来訪だとのこと。

20分ほどして、先客総勢10名は次々と下山に移る。ラジオでNHKののど自慢を聞きながら、ラーメンを拵えて空腹を補う。ゆっくり休んだ後、山頂付近を散策する。エビラ山側の最寄りのピーク付近にはアケボノツツジの淡い桃色の花を見ることができた。また、ムシカリ(別名オオカメノキ、スイカズラ科、カマズミ属)の紫陽花に似た白い花も観察することができた。

約1時間半という山頂での長時間滞在で、身も心もリフレッシュしたので、13:05、下山に移る。急坂の下りでもあり、気を抜くと大怪我しかねないので慎重な足取りでゆっくりと下って行く。少しして単独登頂を目指す40歳前後の男性とすれ違う。これにて、今日の二ツ岳登山者は僕達を含め13人ということになる。良い山なのに、意外と登る人が少ないものだ。

ゆっくり下りたつもりだが、下り道はやはり楽で早い。鯛の頭へ13:27に到着。一気に下りて、峨蔵越に13:45に到着。ここからハネズル山へ稜線伝いに行けないものかと目をやって、薮に覆われていてとてもじゃないが歩けないことを確認した後、下側の水場まで下りて休息をとることにする。沢の水にタオルを濡らして、汗ばんだ顔を拭うと清涼感が突き抜ける思いがする。一息ついて、登山口までもう一頑張りするパワーがみなぎってきた。さあ再び下山に移ろう。

登るときには気がつかなかったのだが、水場辺りにはミドリハコベ(ナデシコ科)の白い小花を見ることもできた。下山路の途中では、これまた紫陽花のような形の白い花をつけたコガクウツギ(小額空木、ユキノシタ科、アジサイ属)なども観察できた。こんな風に花を観察していたら、すっかりスローペースになってしまったのだが、15:07、登山口に辿り着いた。

登山届に記した下山予定時刻どんぴしゃである。ここまで、予定した時間配分通り行程が進む山も珍しい...などといいながら、早速下山記録をしようとポストを開けてみると、僕達の入れたはずの紙がどこにも無い。登るときには無かったはずの周辺地図や、登山届の用紙・筆記用具がポスト内に収められている。どうやら三島警察署の方か、委託された人かはわからないが、差し替え・補充に訪れたようである。下山記録をする前に持ち帰られたので、「この二人連れはひょっとして行き倒れているのでは」と遭難騒ぎになったらどうしようか....と余計な心配をしてしまいもした。

それはさておき、振り返ると本当に良い山であった。本などでは、かなり厳しい登山路というイメージであったが、実際に歩いてみると思ったほどではなく、ツツジ・シャクナゲはガイドブックに記されたよりも遥かに充実したものであった。



【余録1】
さて、松山への帰りがけ、筏津を過ぎた辺りをとぼとぼと歩いている二人連れを追い越した。どうも疲れ果てている様子であり、日浦から西赤石に登り、東赤石経由で筏津に下りてきたのだろうと考え、車に乗せてあげることにした。聞くと実に予想通り。
聞くところによれば、東赤石山は当初予定に組んでおらず、西赤石山に花を求めて登るだけのはずだったが、マイクロバスで30人ほどの団体が大挙押し寄せてきたとので追われるように東に進んでしまったとのこと。
実際に16:00過ぎに登山口付近を走ったときには、バスを含めて十数台が列をなして路側駐車している状態。大永山トンネルから下ったところでは大型観光バス3台が列をなして徐行運転している始末であった。この季節、もはや、西赤石はメジャー級の観光地と化しているようだ。


【余録2】
汗を落して帰ろうということで、西条市のいがり(猪狩)温泉を探したのだが見つからず。仕方無いので、やや引き返して湯之谷温泉(西条市州の内山崎甲1193)に入ることにした。外見上は鄙びた感じではあるが、中身もやっぱり鄙びている。何せ昭和39年頃からの温泉である。しかし、見掛けとは裏腹にここの泉質はすこぶる良いという印象を受けた。源泉の温度は16.9℃。pHは7.58と、熱くもなく、ほぼ中性の湯ということで「いかにも四国の温泉」というところであるが、特筆すべきは硫黄臭いところ。一歩間違えれば下水臭さに転じてしまいそうだが、火山のある地域の温泉のように、「これぞ温泉」という匂いである。「湯の花が付着することがあります」などと貼り紙がしてあり、心底温泉気分を醸し出している。入浴料は300円。


【同行者】稲葉さん
【コースタイム】 総歩行時間:約 時間
[往路]登山口→(80分)→峨蔵越→(45分)→小鯛の頭→(10分)→鯛の頭→(35分)→二ツ岳
[復路]二ツ岳→(22分)→鯛の頭→(22分)→峨蔵越→(70分)→登山口
 

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