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こたろう博物学研究所
探訪記録:20000226 |
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高月山(広見町、宇和島市)登山【平成12年(2000)2月26日】
朝の5:25、目覚まし時計が鳴り響くよりも5分前にきっちりと目覚める。会社出勤の日は目覚まし時計の助けを借りても目覚めず、しかも布団からなかなか抜け出せないのに、こと山登りとなると正確に体内時計が作動し、きびきびと身体が動き始めるのだから不思議なものだ。窓の外は未だ闇に包まれている。冷え切った部屋の中で身支度を整え、家人を起こさぬようにと抜き足差し足で階段を降り、そっと玄関の扉を開く。
5:55、車のエンジンをかけるやいなや走行開始する。6:00に稲葉さんと会社の駐車場で待ち合わせしているが、5分もあれば十分足りる。エンジンも室内も十分に温もらないうちに、待ち合わせ場所へ到着。けれども稲葉さんの姿は見えない。すぐさま携帯に電話をかけてみようと思ったが、まぁそんなに急かして仕方がないし、運転中だったら迷惑だしな.....と気長に待つことにする。来る途中に買った缶コーヒーのタブを起こし、煙草に火をつけ、街灯の光で地図帳を眺めながら、さて今日はどこに行こうかと 15分ほどしたが、稲葉さんは一向に来る気配が見えない。痺れを切らして電話をかける。呼び出し音がなった瞬間といってもいいほど早く繋がった。
20分近くのロスタイムが生じてしまった。山行きの荷物を僕の車に積み替え、早速出発。今回の目標は「南予の山」。以前より「三本杭(松野町/宇和島市)に行こう!」と話していたのだが、稲葉さんには18:00頃までに松山へ帰ってこないといけない私用があるとのことで、松山往復+三本杭登山は、ガイドブックのコースタイムを見る限りは少々キツい。「向こうへの到着時間の塩梅を見て、三本杭か高月山か決めましょう」と話しながら県道22号線(伊予−松山港線)経由で国道56号線に出て、ひたすら南下する。土曜日の早朝ということもあって、車の流れは非常にスムースである。ぺちゃくちゃと山の話などをしながら車を走らせていたら、食材調達を目論んでいた中山町の栗の里公園手前のコンビニ前はすっかり通過してしまっていた。はたと正気に返ったときには紅姿まんじゅう製造販売所の姿が右手にあった。仕方ないので内子町のコンビニを目指す。とにかく南予の山間部国道沿いにはコンビニと呼ばれるような店は無い。内子の街並みに入るとダイエーのやや西手に真新しいサンクスがあったので、そこに立ち寄り、昼食用食材と朝食を買う。(いや、正確に記せば「稲葉さんに買って戴いた。」) パンをかじりながら更に南を目指して車を走らせる。龍王温泉の下の三叉路より五十崎方面に入り、県道229号線(鳥首−五十崎線)経由で国道197号線に出る。肱川−小田川合流点を左折し、大川橋を過ぎたところで道路工事のため若干停車待ちさせられたものの、それ以降は全く順調に車は進む。小薮温泉入口の赤い大鳥居、鹿野川ダム、丸山公園などの景観を楽しみながら目的地へと向かう。
城川入りすると、辺りの景色が何となく白んできた。それから間もなくフロントガラスに白い粉・粒が張り付いてきた。雪だ。天気予報で南予は曇り、高知は雪といっていたが、まさしくここは県境の町。ひっそりとした山間の町は白一色に染まっている。川沿いの平地に切り開かれた田圃も、そして民家や町内の至るところに点在する茶堂の屋根も、真綿のような雪を被っている。雪国の風情ある光景である。少年時代によく目にした、忘れかけの風景が蘇り、ただひたすら懐かしい思いがした。 日吉村、国道197号線、320号線合流点近傍にある日吉夢産地にトイレ休憩で立ち寄る。「ここは南予で一番きれいなトイレなんですよ」などと自慢にもならない自慢を稲葉さんにしながら、用を足しに行く。いつもながら、(便所内に設けられた人工の)小川のせせらぎを聞きながらの小便は爽快である。出すものを出したらさっさと出発する。まだ雪は降り止まない。とはいえ、広見町小倉を過ぎるころには雪景色も段々薄れていき、次第に降雪量も少なくなってきた。
近永の町を通り抜け、少し進むと「成川渓谷」のでっかい看板が見えてきた。注意しなければ見落としてしまいそうな林道入口である。誰のものかは不明であるが、入口左側には句碑が建っている。20年ほど前に訪れたときとはうってかわって、綺麗なアスファルト道が続いている。雪はやや多くなってきたが、走行には全く差し支えない。途中には真新しいペンションがぽつぽつと建っている。成川温泉湯元荘前を通り過ぎ、春を待つ桜並木(新一目千本桜か?)を横目に見ながら、成川渓谷休養センターに8:40頃到着。「足摺宇和海国立公園」と添え書きされた木製の看板が道路脇に立っている。タイヤの踏み跡もまばらなセンター前の駐車場に車を停め、再度トイレに行ったり、雨合羽を着込んだりして登山の身支度を整える。 8:55頃、登山を開始。渓流沿いのアスファルト道を登っていくとすぐに「ベロ岩」「ダルマ岩」という立て看板が目に入る。興味深い名前で、自称「愛媛万物研究家」である僕はわくわくしながらその対象を見つけようと渓流に目をやる。川の中央部に、まさに舌を突き出したような大きな平石があり、「ベロ岩」というのはなかなか的を得たネーミングである。その手前には戴きに細長い木を生やした大きな岩が苔の衣を着て申し訳なさそうに佇んでいる。こちらがどうも「ダルマ岩」なのだが、余り達磨を連想しにくいいでたちをしている。 まもなく、駐車場に着く。案内図の看板が登山道入口に建っている。この地図で高月山やその周辺の位置関係を再確認する。(梅ヶ成峠、羽勢森などが名前が見える。羽勢森は櫨ヶ森の当て字か。標高は広見町誌では1064m、案内板には1089mと記されている。梅ヶ成峠の西手に聳える。)
上部を覆う木々の密度が段々少なくなってきて、登山道が曇天ながら幾分か光を取り戻してきた頃、右手に比較的大きなダムが見えた。砂防ダムとはいいながらも、たっぷりと水を湛えている。そして冷え込みがきついせいか、湖面にはうっすらと氷の膜が張っており、空から落ちてきた柔らかそうな雪がシャーベット状に貼り付いている。時計に目をやると9:15。歩き始めて約20分である。 一息つきながら写真を一枚撮り、再び足を動かし始める。そこから1〜2分も歩けば、最初の林道との合流点に辿り着く。何やら立て看板があるが、雪の覆い被さっていて何が書いているの確認できない。「高月山に纏わる情報でも書いてあるのでは」と興味津々に手で雪を掃ってみたが、どうも森林の区域標示らしきものであった。残念。 やや右手に上へと続く登山道がある。そこから5分ほどで、3つめの沢(というか岩床といおうか...)、更に10分ほどで4つめの沢に至る。周りの木々は如何にも植林といった面持ちで真っ直ぐに幹を伸ばし、無駄な雑木が殆ど見られない。
そうこうしているうちに、登山道を取り巻く木々の樹相も変わってきた。若いヒノキの小低木が群れを成している。日当たりのよい斜面をぐねぐねと行ったり来たりの道が続く。やがて北方の彼方に青白く霞んだ連なる山々が見えてくる。その中にすっきりした形の山が浮き出て見える。方角的には「泉ヶ森(標高:755m)」に間違い無い。
成川上部林道は一般車両通行禁止のせいもあり、雪で覆われ轍の跡は一切見えない。人の気配を感じさせるものは僕達の踏み跡だけである。一服しながら、辺りを散策する。ヘアピンカーブを巻く様に西に行くと、道端の削面に、これから登ろうとする鉄製の梯子が立てかかっているのが目に入る。そしてその向こうに長さ20〜30cmの氷柱が垂れ下がっている。久々に目にした氷柱。何となく童心に返ってしまう。稲葉さんが手折って口にするのを真似して氷柱を齧ると、乾いた喉に小気味良い冷たさが染み渡る。 10分ほど小休止した後、登山再開。10φほどの鉄棒製の梯子を注意深く上る。こんなところで踏み外して転落し、足を折ったりしては洒落にならない。雪がこびりついていて、いかにも滑りそうだったのだが、実際に上ってみるとそうでもなかった。
予想通り、それからすぐに「高月山−梅ヶ成分岐」に到着。時刻は10:25。先程の小休止から30分しか経っていないし、景観も優れないので足を停めずに目的地へと向かう。
分岐から10分ほど歩いたところに、「高月山」の案内標識、そして向かい合って「国有林」の標識が立つ場所に到着。更に10分進んだところに三角点の立つ小ピークがある。この辺りも景観は優れない。よって休まず先へと進む。
ひいひい言いながらも、11:30、山頂に到着。気温は思ったよりも高く、10℃近くまで上がっている。最後の急坂で汗が滲んでくる程に身体があったまったせいもあり、意外と暖かいなと思ったのも束の間、急に風が吹き始め、巻き上げた雪が僕達の周りを包み込む。温度は一挙に0℃の世界へ。
そうこうしているうちに、天候は非常に穏やかになってきた。山頂からの眺望も開けて、宇和島湾から三間・広見方面の遠景が見渡せるようになった。あらためて山頂からの風景、高月権現の祠、三角点などをカメラに収める。
気がつけば時計は12:30を回っている。知らぬ間に1時間も山頂に居座ったことになる。温泉に入ってゆっくりして帰りたいので、重い腰を上げて下山に移ることにする。 ちなみに高月山は標高1228.8mで、鬼ヶ城山塊の最高峰。広見町内でも最高峰である。地質的には、約1200万年前にマグマが上昇して固まった花崗岩(南予地方の一連の花崗岩は「高月山花崗岩」と呼ばれる)でできている。 さすがに下りはピッチが早い。再び三本杭遠景などを楽しみながら比較的ゆっくりと下ってきたつもりだが、「高月山−梅ヶ成分岐」に到着したのは13:10。山頂から約35分であり、上るときの半分の時間である。
下山してみると、朝降り積もっていた雪はすっかり溶けてしまっている。朝の雪景色が嘘のようである。緑色に包まれた渓谷美を楽しみながら、そして登るときに気になっていたセンター前に建立している酒井黙禅句碑などをしげしげと眺めながら駐車場まで戻り、荷物を積んで、そして着替えを取り出して高月温泉へと向かう。 高月温泉(源泉名:「高月温泉第4号泉」)はアルカリ性単純泉。pHは8.7で、ラドン含有量は2.9×10^-19Ci/kgである。適応症は、神経痛・筋肉痛・関節痛など。平成5年頃に出来た建屋らしく、真新しさを感じる。入浴料金は300円と非常にリーゾナブルなお値段。シャンプーも石鹸も備え付けられていて、非常に得した気分になっていまう。湯船はこじんまりとしているが、入浴客は10人足らずだったので狭いとは全く感じなかった。窓からは渓谷を取り囲む森林の緑が見渡せ、心身共にゆったりした気分になる。風呂上がりには畳敷きの広間で茶を飲みながらゆっくりとくつろぐこともできる。
そうこうしている内に15:30を過ぎ、松山の岐路についた。帰りがけ、成川林道走行中に野生サル3匹と遭遇したのは感動モノであった。後続車がいるのも忘れて減速し、しばし行動を見入ってしまった。幾分か人馴れしているようで、車の姿が見えても全然逃げようとしない。 道草を食わず、真っ直ぐに帰ろう。海側の国道56号線を回って帰ろうとも思ったが、雪もすっかり止んだことだし、元来た道、国道320号線−国道197号線を引き返すことにする。車は至って順調に進み、17:30に松山に到着した。
【同行者】稲葉さん 【コースタイム】 [往路]登山口(8:55)→ダム湖畔(9:15)→成川上部林道合流点(9:45)−梅ヶ成・高月山分岐(10:25)→三角点小ピーク(10:45)→高月山山頂(11:30) [復路]高月山山頂(12:35)→梅ヶ成・高月山分岐(13:10)→成川上部林道合流点(13:30)→登山口(14:15) |
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